インタビュー 第1回 山上かさねさん(人形作家)

『純粋な想いを表現する生き方』をテーマにしたインタビューの第1回。

人形作家でありシュタイナー教育を取り入れた子育てを実践されている山上かさねさんに自然豊かな栃木県益子での幼少期から東京でのファッションデザイナー時代、現在の人形作家としての活動や子育てについてお話をうかがいました。

山上かさね /人形作家
子育てを機にシュタイナー教育に出会い人形作りを始める。人形教室や親子でできる手仕事のワークショップを都内中心に行っている。現在、渋谷区こども・親子支援センターかぞくのアトリエにて〈季節のテーブル〉の設えを担当。
https://www.instagram.com/k_a_s_a_n_e/

~展示予定~

harumachi mashiko craft market〜ハルマチマシコ・クラフトマーケット
【会場】栃木県芳賀郡益子町城内坂88 やまに大塚2Fギャラリー緑陶里

【日程】2021年2/3〜2/28(26日間) 10:00〜16:30 会期中無休


魔女になりたかった子ども時代

___ご長男の子育ての中でシュタイナー教育*に出会われたんですよね?

山上:長男が生まれてすぐ「シュタイナーの子育て(クレヨンハウス)」を読んで「おやっ?」って思って。それからシュタイナー関連の本を読み始めてすごくしっくりきたんです。それで全部はできないけどできることを家でやってみようと思いました。仕事が忙しかったのでお人形教室にも行けなくて本を読んだりして作ってみたけどなかなか難しかったです。

初めて「シュタイナーの子育て」を読んだときはすごく親和感があって「うちの両親はこれを読んで私を育てたんだ!」と思ったくらいすっと入ってきた。なので両親に聞いてみたんですけど「そんなものは読んだことない」って言われました(笑)自然と近いことをやってくれていたのだと思います。

*シュタイナー教育… 20世紀はじめのオーストリアの哲学者・神秘思想家であり教育、芸術、医学、農業、建築など多方面に影響を与えたルドルフ・シュタイナーの人間観に基づいた教育実践の総称。

___ご両親の子育ての方針がシュタイナー教育に近かったのはなぜだと思いますか?

山上:たぶん母の通っていた学校がそれに近い教育をしていたんだと思います。

___当時「うちってほかの友だちのところと違うな」と思うようなことはありましたか?

山上:自然っぽいおもちゃが多くてゲームなどみんなが持っているものがなかったり、テレビをあまり見せてもらえなかったりして友だちの話についていけなかったことはありましたが… 

お菓子作りをしたりお人形を作ったりしょっちゅう音楽会に連れていってもらったりでやることがいっぱいありました。植物を育てたり山で遊んだりひとりで遊ぶ時間もたくさんありました。

___子ども時代に夢中になったことはありましたか?こういうことをしているときが一番好きだったというのは?

山上:特定のこれっていうのはあったかな…(少し考えて)本が好きでずっと読んでいました。ちょっと疲れたら外に出て自然の中で遊んでいました。

___子どもの頃の将来の夢は?

山上:(少し照れながら)魔女になりたかった(笑)

___え?魔女?かわいい夢ですね!

山上:魔女の本をあつめていて小学校低学年くらいまで絶対魔女になるって思っていました。でも4年生くらいでいないんだ、なれないんだと思ってどうしようってすごく迷いました。

___魔女のどういうところに魅かれたんですか?

山上:空を飛んだり魔法の薬をつくったりするのにあこがれました。

___現実の世界であこがれの人はいましたか?

山上:(習っていた)バイオリンの先生にあこがれていました。すごく怖いんだけどレッスンの合間にレコードを聴かせてくれたりふと絵画を見せてくれたり、昔の羊の革に書かれた楽譜をみせてくれたり。それこそ魔女みたいな先生でした。

___魔女になれないってわかってからは?

山上:しばらくして洋服を作りたいと思うようになって中学生くらいからずっと洋服を作る人になりたいと思っていました。

___それは小さい頃からお人形を作ったり手仕事をしていた流れで?

山上:その頃お人形は本当ににうまく出来なくて… たぶん思っていた理想の形には一回も出来なかったと思います。

お洋服の方が理想の形に仕上がったからそっちの方がだんだん楽しくなったんです。

___作ることだけではなくファッションも好きだったんですか?

山上:ファッションも好きでした。当時のテレビ番組『ファッション通信』を録画して何回も見ていました。

___高校卒業後に服飾の専門学校に進まれたんですよね?

山上:本当は服飾デザイン科のある高校に行きたかったんです。でも自宅からバスで一時間くらいかかるところにあって… 私は車酔いするので悩みました。

そこでいいなと思っていた専門学校に電話して進路について相談したら「高校のうちは服のことを専門に勉強するよりも世界観を広げるようにした方が良い」とアドバイスをもらって、そうだなって思ったので近所の普通科の高校に進み卒業後上京して専門学校に進みました。

___学校での服作りは楽しかったですか?

山上:すごく楽しかったです!毎日課題がいっぱいで学校のことをずっとやっていました。

人と人とをつなぐデザイナーから人形作家へ

___専門学校卒業後は?

山上:アパレルの会社にデザイナーとして入社しました。現実的な問題はいろいろあったけど仕事はとても楽しかったです。ものづくりということだけでなく人と人とをつなぐパイプ役のような仕事も多かった。服ってひとりじゃ作れないからいろんな人とのコミュニケーションみたいなものが楽しいなあと思っていました。

あと自分がデザインした服を着ている人を街で見かけたりテレビで見たりするとやっぱり嬉しかったですね。

___ずっと同じ会社にお勤めされていたんですか?

山上:数回転職をして次男の出産のタイミングで退職しました。卒業後12年間でやりたいことをやりきったという思いもあったので子育てに専念することに決めました。長男のときは仕事が忙しくて一緒にいられる時間が少なかったのですが、仕事を辞めてからは今まで子育ての中でやりたくても出来なかったことが全部出来たので嬉しかったです。

___人形作家として活動を始めたきっかけのようなものはあったのですか?

山上:お人形はずっと長男のためにつくっていました。お人形や季節のテーブル*をSNSに投稿していたのですがそれを見たかぞくのアトリエのスタッフの方から「季節のテーブルをかぞくのアトリエに設置したい」と 知り合いを通じて連絡をいただいたのが始まりです。同時にお人形の講座も受け持つことが決まりました。

*季節のテーブル…シュタイナー教育で子どもたちの成長の中に自然に一年のリズムを感じられるようお部屋の片隅などにしつらえる空間。季節を感じられる植物・鉱石・貝殻や、羊毛などで手づくりしたのものを配置する。

___人形作家としての活動について教えてください。

山上:「季節のテーブル」「人形講座」「人形製作」とおもに3つの活動があるのですがどれもそれぞれ楽しいです。とくに好きなことを一つと言われたら… 人形製作でしょうか。講座で教えるのは毎回課題を感じていて、反省点や次はこうしたいなっていうのもあるのでいまだに教えるのは上手くないと思う(笑)

___人形講座で大切にしていることはありますか?

山上:型どおりにつくるのではなくその人らしいものが出来たらいいなと思っています。でも最終的に持って帰るものがぐちゃぐちゃだと楽しくないので、良い形で持って帰れるようでもその人らしさが出るようにするのが課題であり楽しいところです。

___人形作家として今後どのように活動したいですか?

山上:お人形の展示会を年1回くらいのペースでできたら良いなと思っています。

___話がかわりますが、もし時間やお金などのあらゆる制約がなかったとしたらどんなことをしたいですか?

山上:ずっと料理をしていたいです。

___えっ!料理ですか?意外な答えです。

山上:(2020年の)自粛期間中にずっと家にいたので、パンとか本を見ていても時間がなくて作れなかったものを片っ端から作ろうと思いました。それがとても楽しかったので。料理は作ったら食べてくれる人がいて消えてくれるところが一番良いなって思います。ほかのものづくりは保管のこととか考えないといけないけど料理は食べちゃって消えてなくなるから「よし、また作ろう!」って思える。家にいるのが基本的に好きなんです。旅行も好きだけどしばらくすると家に帰りたくなっちゃう(笑)

ひらかれた世界で子ども自身が選択していけるように

___子育てについて聞かせてください。子育てって学びもあるし楽しいこともありますが、やっぱりしんどいなあということもたくさんあると思っているのですが…

山上:みんなで子どもを育てるってことがやっぱり良いんじゃないかなと思っています。親だけではなく親戚や地域で、みんなで育てたほうが子どもにとっても良いんじゃないかと思います。

今はコロナの影響もあって人と人や地域が分断されてしまったから、そこをどうやって作り直していくかが大きな課題だと思います。なるべくひらかれた世界になってほしい。いろいろな生き方をしている人が身近にいて、それを見ながら子どもたちが自分で選択していけるようになるのがいいなと感じます。

___親自身が内に抱えているものがあってケアが必要な場合も多いのではと自分の経験も通して思うのですが、それについてはどう思いますか?

山上:女性に関して言えば、しゃべることでいろいろなものを解決していくという面があると思います。女性だけで集まる場って大切だと感じます。たとえば手仕事で手を動かしながらずっとおしゃべりしたりするような場。

___わかるような気がします。コサージュ教室でも生徒さんたちは手は動かしながらも恋愛話や家庭の話なんかをして盛り上がっていました。最後にお茶とお菓子をみんなでいただいてちょっとすっきりして帰っていくみたいな。

山上:昔の集落ってそうだったんじゃないかと思います。一緒に作業しながらいろんなことをしゃべって、ものも生まれて。いろんなことが解消していった。

あと、完璧を目指さない。私はだめなところも全部見せてしまっているかも(笑)その人がその人らしく、その子がその子らしいのが理想だから自分も無理をしない。

___ほかに子育てで大切なことや心がけていることなどあったら教えてください。

山上:四季を感じることです。季節が変わってめぐってという大きなリズムの中で育つと「今はこうだけど次はこうなる」という予測ができるようになる。季節のテーブルの大きな役割は大きなリズムを子どもの心に刻むことなんですが、外に出て季節を感じながら木の実や葉っぱを「あ、これ飾れるね」と拾って帰ったりとふと向ける部分があると、地に足が付いた感覚で物事をみられるようになるんじゃないでしょうか。

___季節がめぐる大きなリズムを大切にするとのお話でしたが、朝太陽が昇って夕方沈むという小さな単位のリズムもありますよね。

山上:シュタイナー教育でも1日のリズムを一定にするということを大切にしています。「今日はどうなるんだろう?」という不安をあまり感じずいつものルーティーンの中で育つと子どもの心が安定するといわれています。現代だと「もっといろんなところに連れて行っていろんなことを経験させないと!」となりがちだけど結局親も疲れちゃうし子どももわぁーっとなっちゃう。毎日のくり返しの中に大切なことがあったりするんじゃないかなと思います。

___最後に。自身の純粋な想いを表現するためには人とのつながりが大切だと思っているのですが、“つながり”ということについて一言お願いします。

山上:私の仕事はだいたい外からやってきて、課題を与えられて、「じゃあこういうふうにしてみようかな」とすすんできました。求めてつかみに行くものではない。そういった意味で人と人とのつながりの大切さを感じています。現代はいろいろと外側に広がりすぎた面もあるから今は自分の内側に向かっていく時期でもあるのかなと思います。

____ありがとうございました。

(本インタビューは緊急事態宣言前に行われました)

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